路地裏のある美容室
2019年 竣工
所在地:愛知県瀬戸市
用途:美容室 + 住宅 + 陶芸アトリエ
敷地面積:93.00㎡ + 203.11㎡
建築面積:33.89㎡ + 50.52㎡
延床面積:33.89㎡ + 64.93㎡
規模:地上1階(一部2階)
構造工法:木造
担当:境原桃太・境原彩香
構造:ストラリズモ一級建築士事務所
愛知県瀬戸市に位置する美しい桜並木沿いの敷地。美容師であり陶芸作家でもある建主の活動拠点として、住まい、美容室、陶芸アトリエをひとところに集約した職住一体の場を計画する。
一見ひとつの敷地のようだが「井溝(せいこう)」という古い通水路が地中を横断していることがわかった。公有地である井溝部分を行政から賃借して一体の駐車場として長らく使われていたようだ。手続きを踏めば土中に配管を横断させることも可能だが、その地上部分に建築することは認められないため、井溝を避けて計画する必要がある。必要面積を鑑みると南北に分断された敷地に対して一棟で計画するには無理があり消去法的に分棟形式をとったが、「井溝」という隔たりを積極的に計画に巻き込んでいくことで利便性を超えた豊かな職住一体の場を創造したいと考えた。
美容室の公共性、住居のプライバシー性、アトリエで創作に没頭するための秘匿性、という3つの性質を基本とし、さらに細分化すると、待合いスペース、施術スペース、バックヤード、ギャラリーなど各空間毎に求められる性質は異なる。これらをふたつの敷地に散りばめることを想像していたら、井溝部分が「みち」のようなものに見えてきた。井溝が仕方のない余白として残されるのではなく、生活動線として日々の暮らしが滲み出し、店舗やアトリエを客が往来し、友人を招き入れ、住人が愛でる草花木々が皆を楽しませ、そこで営まれる文化を発信しながら交流をうみだす拠りどころとして「路地裏」のような場所になったら楽しそうだ。
建物は基本用途に分けた3棟構成とし、公共性の強い美容室棟と付随する駐車スペースは前面道路側に、「みち」を挟んで奥の敷地に陶芸アトリエ棟と住居棟を配置した。各棟で独自に機能を満たそうとすると相応の床面積が必要になってくる。建主は豊かな庭を手造りしたいと望んでいたため、余白をできるだけ残すべく、似通った性質の空間を重複させていくことで延床面積を抑えていった。例えば、一席だけの美容室に大きな待合スペースがある。日中のほとんどを美容室で過ごすことになる店主のセカンドリビングであり、家族連れ客でも気兼ねなく利用できる配慮でもある。カット面を増席する将来性にも対応できる。施術スペースはプライバシーを保ちながら庭や桜並木を借景し、待合いは前面道路に向かって開くことで立ち寄りやすさを強調した。外壁は閉じているが大きな北向きトップライトが柔らかな明りを取り込む陶芸アトリエの一角には、開放的な土間スペースが併設されている。商談や打合せスペース、陶芸作品を展示するギャラリー、陶芸教室、友人を気軽に招くダイニングとして柔軟に姿を変える。住居棟のキッチンは外部と往来しやすい土間とすることで美容室のバックヤードとして機能し、窓越しにアトリエ側へと料理を受け渡すことも可能だ。建築面積が小さいため、キッチンから小さなリビング、就寝スペースへと雛壇状にレベルを上げていくことで奥行きを与え安心できる憩いの場となるよう意識した。
「みち」を介して棟が地続きになることで相互作用がうまれ、総体として親密に混ざり合っていく「路地裏」のような場所に育っていくことを楽しみにしている。