つぐ「離れ」

つぐ「離れ」

2023年 竣工

所在地:愛知県

用途:離れ(仏間/書斎)

建築面積:60.45㎡

延床面積:80.32㎡

規模:地上2階

構造:木造

施工:箱屋

わたしの実家の敷地には、空き家となった祖父母の家、納屋、祖父母が事業を営んだ作業場と一体になった蔵が当時のまま残されていた。長男夫婦が新居を構えるために老朽化した祖父母の家を解体することになったが、仏間に置かれている大きな仏壇を移す場所がない。そこで、現在は車庫謙物置として使っていた作業場部分を改修し、仏間と父の書斎を併設した「離れ」として蘇らせることになった。


基礎に切妻屋根を被せたがらんどうの簡素な作業場は、内部仕上げや断熱は施されておらず、見上げれば屋根の野地板、剥き出しの躯体に塗り込めた荒い土壁に、祖父が打ちつけたであろうベニヤの腰壁、外側からトタンが張られただけのまさに建築途中のような状態であった。ススの付いた壁や柱梁、擦れた傷などの痕跡が残る。


この土地に暮らしてきた家族の記憶と精神性を宿した建物に新たな価値を取り戻そうという計画に賛同する一方で、「離れ」がいつか父の手を離れたときに、仏壇を安置するためだけの持仏堂のようになる可能性も過ぎっていた。たとえ毎日使われることはなくなったとしても、さらに次の世代の暮らしにまで寄り添い残され続けていく価値のある建物にできないか。


作業場として長い歴史を刻んできた空間は、家族にとっては秘匿性が薄く共有性を孕んだ場所で、どこか悠々閑々とした雰囲気が漂っている。登山を趣味とする父が足掛かりとして山小屋のようなデザインへの憧れを語ったが、意匠性のみならず、訪れる者を迎え入れる「拠り所」としてそこに在り続ける山小屋のような場所性を秘めているように思えた。


この建物を居室として成立させるためにはそれなりに手を加える必要があったが、これまでの痕跡をリセットしたり覆い隠してしまうのではなく、仏間としての強い精神性を宿し、父の部屋として記憶を重ねていく場所として、もとの姿を整えたうえで新たな痕跡をアップデートするような造り方を意識した。ここで作家性を押し出すことは意図的に避けていた。


重機を搬出入するための3m×3mほどの大きな出入口を踏襲し、この土地に開かれた建物としての共有性を受け継いだ。外側から纏うように断熱補強を施すことで内部の構造体を現したまま蓄積した汚れを洗浄し、土壁は漆喰で化粧を施し、細部は職人の手によって丁寧に整えられた。ずっと未完成だった建物が、今ようやく完成したような姿になった。
祖父母の家の仏間と、父が好む実家の小上がり和室の趣を受け継いで、既存土間の上に束建ての床を組んで畳敷きとした。また、汎用性と将来の更新性に配慮し、梁から吊るした鴨居に障子を嵌めた簡易な間仕切りのみ設え、床の間を設けない代わりに仏壇を納めるための箱と収納と水回りを納めた箱を据えただけの構成とした。


「離れ」には父が日々過ごすだけでなく、たびたび旧友が集い、訪れた親族が仏壇に手を合わる。里帰りした家族が寝泊りし、幼い孫たちが走りまわり、昼寝したり、設計者が打合せスペースとして使わせてもらったりなど、さっそく新たな歴史を刻み始めている。将来は長男の家の離れとして、どんな使われ方をするのか楽しみにしている。