70%コートハウス

70%コートハウス

2019年 竣工

所在地:愛知県知多郡

用途:専用住宅

敷地面積:223.39㎡

建築面積:118.42㎡

延床面積:118.42㎡

規模:地上1階

構造・工法:木造

担当:境原桃太・境原彩香

構造:藤尾建築構造設計事務所

敷地は南西の角地で、南側道路を挟んだ向こう側に高さ約4.8mの擁壁がそびえている。擁壁上は遊具こそないものの公園として扱われており、アイレベルが近隣住宅の2階とちょうど同じぐらいになっている。この擁壁沿いの住宅には1階、2階のカーテンすべてを閉ざしているところが目立つ。

同様の理由から、建て主は周辺に対して閉じることを望んだ。加えて平屋を望んだのもあって、敷地条件から考えると近隣との隔離距離を確保するのさえ難しく、基本計画として北側にLDKと水まわり南側に個室群をまとめて中庭に向かって開くコートハウス形式を選んだ。

しかし当計画の場合は、向き合わなければならない課題がまだ3つ残されていた。

➀中庭の広さを十分に確保できないため、堅牢に閉じようとするほど圧迫感が強くなっていく。

➁同様に、中庭が狭い代わりに建物の高さを抑えなければ中庭に四六時中影を落とすことになる。

➂擁壁上の公園をどう扱うか。前面道路と同等のプライバシーを脅かすおそれのある存在なのか、ただ風景のひとつとして捉えるのか。

これら課題にどう応じるかが、この建築の在り方を左右する。どこまで開いてどこまで閉じるのか。当初から個室群がLDKと南側道路との間に建って視線を制御するようなイメージは膨らませていたが、現段階ですでに、北側に寄せられたLDKと擁壁上は水平距離にして約18m離れており、すべてを拒絶するように遮断して構える必要性はないように思えた。とはいえ大々的に開いてはコートヤードの意味を成さないので、何となく気配を感じとることはできる、視線は交差するかしないか、という紙一重の境界を探った。

直線屋根で計画しようとすると、全体的に表情の乏しいのっぺりとした空間になってしまう。天井高さ、擁壁上との距離や角度、位置関係等から導き出したR屋根が、全体の連続性を強調しながらも、LDKは天井の高い開放的な空間として、一方で個室は高さを抑えた落ち着きのある空間として抑揚を生みだす。そのR屋根に中庭をくり抜くことで室内にまで十分な光を取り込みながらも、切り抜かれた屋根のエッジが空と公園の気配を切り取り、町との距離感をコントロールする境界として機能する。

家の中に立つ場所によっては公園を望むこともできるし、腰を掛ければ完全に視界から外すこともできる。暮らしの中にたゆたう境界が存在することによって、町との繋がりを保ち続ける、閉じ切らないコートハウスとなった。