東浦の家(仮)

東浦の家(仮)

2024年8月 竣工
所在地:愛知県知多郡
用途:専用住宅
敷地面積:176.30㎡
建築面積:81.20㎡
延床面積:109.52㎡



規模:地上2階
構造工法:木造
担当:境原桃太・境原彩香
構造:寺戸巽海構造計画工房
施工:箱屋

実家の隣に残されていた祖父母の家を解体し、息子夫婦と2人の子どものための住まいを計画する。地方では、家を世代ごとに建て替えながらひとつの敷地を住み継いでいく慣習は今も珍しくない。

今回のように実家と同じ土地に計画するケースでは、世帯毎のプライバシーや関係性に繊細な配慮を求められることが多いが、夫婦は私たちが想像していたほど敏感には捉えておらず、むしろ大きな掃き出し窓と広いLDKのある平屋暮らしを望んだ。そこからは、隣に住む両親との良好な関係性が垣間見えるとともに、慣れ親しんだ伝統的な日本家屋への親しみと、現代的な間取りへの憧れを感じ取ることができた。

敷地は北東の角地で、幅員4mほどの狭い2つ旧道に面しており、地元住民の生活道路として人通りは絶えず車の交通量も少なくはない。南側に唯一余白が残されているが、道路から奥の実家へとアクセスする動線であり、両親と夫婦のための駐車スペースになる。この敷地には庭のように拠り所とする外部空間はなく、両親と共用する部分が多いため、一歩家の外に出れば「公」の始まりとなり個人の所有物としての特性は低い。一方で、町との間に設けられた広い緩衝地帯として「私」の延長のような親密な領域性も備えているため、捉えかたによっては開いて暮らすハードルが高いわけでもない。どちらともとれるこの敷地で無暗に開放してしまうと、どこか落ち着かずにいつも結局カーテンを閉ざしたまま過ごすことになる可能性は拭えない。

そこで私たちは「開放的でありながらも内向的な家」を目指そうと考えた。

敷地面積から平屋として計画するのは無理があるため、大きなLDKの北側に寝室や水まわりを据え、夫婦2人であれば不自由なく平屋暮らしができる間取りとし、北側の2階に子ども室を載せたシンプルな平面構成とした。そこに1枚の大きな屋根を架けることで下空間の一体感と包容力を強調し、各室の天井高さを確保しながら南に向かって軒を低く抑えていくことで、窓辺に近づくほど開放性は高く、奥に身を置くほど覆われた内向性へと意識が向かう。登り梁を一身に受ける大断面の桁を窓面よりも室内側に引き入れることで、より開放的で軽やかなガラス面を実現した。さらにこの家の象徴ともいえる架構が表と奥の領域を示すことで縁側であり玄関ホールであるような緩衝帯をうみだし、プライベート空間に奥行を与えている。

ただ室内空間を守ろうとするほど中は薄暗くなってしまう。そこで敷地環境に応じるように屋根を「ねじる」ことで、空間に抑揚を与えた。南西の軒は視線ほどの高さまで低く落として高台にある住宅の視線や西日を遮りながら、深い軒下空間が実家との距離感を程よく保つ役割を担う。南東に向かって捲れ上がっていく屋根は視線を空へと誘い豊かな自然光を室内に取り込む。ねじれは室内空間にもダイレクトに現れており、キッチン側からの視線は開放的で、リビング側からは落ち着きのある印象を与える。

このように「内/外」という明確な構図に斑(ムラ)を与えることで、内に日常の安息を求めながらも、気分や場面に応じて生活が外に滲みだし、ときには滲み入ることも許容できるような、暮らしに緩みをもたらす家になることを願っている。